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夜も更けた頃、クラブハウスのチャイムが鳴った。こんな時間に来客など予定はないが、出ないわけにもいかない。外敵の可能性も考慮し、相手から見えないようにクナイを持った咲世子が玄関を開けると、そこにいたのはスザクだった。しかも、咲世子には見覚えのない女性を連れて来ていた。 それは新緑の長く美しい髪と神秘的な黄金の瞳を持つ美少女で、スザクは持てるだろうと思ったが、ルルーシュ、カレン、ユーフェミアだけではなく他にも相手がいるのか、しかも全員目を見張るほどの美形で、スーさんは面食いなんですね、と咲世子は思わずスザクの顔を見つめた。さて、誰が本命だろう。スザクも美形だから、誰と並んでも違和感は無いが、男であるルルーシュ様は不利かもしれませんね。と、勝手な結論をだしていた。 「スザク様、このようなお時間にどうされましたか?」 いくらここに住む兄妹が心を許している親友とはいえ、家長であるルルーシュ不在の今、女性しかいないこの場所に、しかもこんな夜遅くに迎え入れる事は出来ないという思いも込めて言った。 優秀なメイドである咲世子の反応はもっともな物で、さてどう話を切り出そうかとスザクが口ごもった時、横から割り込んできた声があった。 「咲世子、ナナリーに伝えろ。C.C.とスザクがルルーシュの事で話をしに来たと」 「しーつー、様でございますか」 それは、隣りにいる美少女だった。 聞き間違いではないはず、これが名前なのだろうか?と思い、咲世子は尋ねると、C.C.はそうだと頷いた。 「ナナリーと私は知り合いだ。名前を言えば分かる」 「畏まりました。暫くお待ちください」 咲世子は二人をその場に残し、ナナリーの元へと向かった。 「スザクさん、C.C.さん、いらっしゃいませ」 入出許可はすぐに降り、二人を室内に迎えた後咲世子は一度退室し、ナナリーを連れて戻ってきた。顔色は悪く、やつれてしまっているが、それでも明るい笑顔で挨拶をするナナリーを見ていると、罪悪感で胸の内がチクリと痛んだ。 「こんな時間にごめんね、ナナリー」 「いえ、大丈夫です。それで、何か私に御用があるとか」 「うん、大事な話があるんだ。・・・えーと、咲世子さん」 「はい、では失礼いたします」 自分が居ては拙いのだろうと、咲世子は退室しようとしたが、スザクは慌てて止めた。 「あ、違うんです。咲世子さんにも同席してほしいというか・・・咲世子さんは、口が堅い方、ですよね?」 スザクが不安げに尋ねてくるので、咲世子は内心疑問を感じながらも是と答えた。自分はここで働いているメイドだ。ここの兄妹の事も含め、口外しないよう言われている。それに、彼らは知らない事だが、元とはいえ隠密である事を誇り生きているので、機密を漏らす事など無い。 咲世子の反応に安堵したスザクに「それだけで信じるのか?馬鹿かお前は」と、あきれたC.C.はナナリーに話しかけた。 「ナナリー、お前はどう見る?咲世子は信用できるのか?」 「はい、咲世子さんは信用できる方です」 ナナリーは迷うことなく断言した。 その言葉に、咲世子の胸の内が暖かくなる思いがした。 自分は属国の人間だ。ブリタニア人に蔑まれ、嘲笑われることなど日常茶飯事。理不尽な暴力を受けた事もある。だが、そんな自分をイレブンではなく日本人と呼び、心からの信頼を返してくれるナナリーの信頼に答えなくてはと思った。 その思いが顔に出ていたのか、C.C.は口角をあげ、納得したように頷いた。 「そうか、ルルーシュも咲世子は信用できると言っていた。何せあの男が、最愛のお前を預けるほどだからな、当然か」 ルルーシュも信頼してくれている。 ああ、この兄妹を裏切る事は出来ないと心の中で呟いた。 スザクは、それなら先に言ってよと不貞腐れた顔でC.C.を見たが、C.C.は気にもしていない。C.C.の方が見た目で言うなら年下だと思われるが、スザクよりも年上の女性のような気がしてくる。きっとスザクは彼女の尻に敷かれているのだろう。 「咲世子、この兄妹のためにも、これから見る事、聞く事全て他言無用だ」 「畏まりました」 この兄妹にとって不利な内容であるならば、口外しない。 その思いを表情と声で読み取ったC.C.は、それでいいと口元に笑みを浮かべ「すぐに戻る」と席を立った。そして、数分もせずに戻って来た時には、小さな子供を連れていた。 黒い猫耳がついたフードを深くかぶっている為顔は解らない。 ・・・そう言えば、スザク様にはカレン様との間に御子が生まれたと・・・。 咲世子はこの子供がそうなのだろうか?と考えたが、それならばなぜC.C.が共にいるのだろう?と首を傾げた。しかも赤ん坊ではなく3歳ほどの子供だ。 パーカーのフードからチラリと見えた黒髪を見て、咲世子はハッとなった。 ・・・まさか、ルルーシュ様の・・・そうでしたか、もしかしたらC.C.様との間に・・・ルルーシュ様は17歳ですからお子様は・・・という想像を巡らせはじめていた。 C.C.とは別の足音が室内に入ったことで、ナナリーも他にも誰かいるのだと気づいた。だが、もう一つの足音は軽く歩幅も小さいため、小さな子供のようだった。 二人が連れて来た子供。 噂になっていたスザクとカレンの子供? 来たのはC.C.だからスザクとC.C.の子供だろうか? いや、ルルーシュの話といっていたからまさか・・・。 子供は、ナナリーの傍までいった後、そこから先に足を踏み出すのを躊躇っているようだったが、スザクが近づいてきてその体を抱きあげた。 「迷ってても仕方ないだろう?ほら、ナナリーと話をしなきゃ」 そう言うが早いかスザクはさっさとナナリーの前まで幼児を運び、しゃがんだ自分の膝の上に幼児を座らせる体制を取った。どこか逃げ腰だった幼児は、逃げ場を失い戸惑っていたが、スザクが再度促すと諦めたように息をついた。 その仕草はとても幼児とは思えなかった。 「・・・ななりー」 幼児はフードを下ろし、深い愛情をこめて名前を呼んだ。 「・・・え・・・」 ナナリーは幼い男の子に名前を呼ばれた事っで一瞬戸惑ったが、すぐに手を伸ばした。幼児もまた手を伸ばし、互いの手に触れると、ナナリーはその小さな手を両手で包みこんだ。明らかに困惑した表情で、それでもしっかりとその手を掴む。 「・・・さ、さよこさん」 ナナリーはか細い声で傍にいるメイドを呼んだ。 「はい、ナナリー様」 「・・・教えていただけませんか?」 何を、と言われなくてもすぐに解った。 「ルルーシュ様に良く似たお子様です」 ルルーシュに子供がいたと結論を出していた咲世子だったが、ナナリーは「やっぱり」と、心の底から明るい声で言った。 「お兄様、お兄様なのですね?おかえりなさい、お兄様っ!」 15歳の少女が3歳児に対し、迷うことなく笑顔で言った。 |